社労士が明かす!助成金申請で絶対にやってはいけないミス10選

企業の成長や雇用の安定を支援する「助成金」は、原則として返済不要であることから、多くの経営者にとって非常に魅力的な制度です。しかし、「要件に合致しているから大丈夫だろう」と安易に考えて申請を行い、思わぬ落とし穴にはまって不支給となってしまうケースが後を絶ちません。

助成金の審査は極めて厳格であり、わずかな書類の不備や1日の期限遅れ、そして労働関係法令の理解不足が、受給の可否を分ける決定的な要因となります。苦労して準備を進めたにもかかわらず、基本的なミスで数百万円規模の資金を逃してしまうことは、企業にとってあまりにも大きな損失です。

そこで本記事では、助成金申請の最前線に立つ社会保険労務士の視点から、申請プロセスで「絶対にやってはいけないミス」を具体的に解説します。書類作成時の注意点からスケジュール管理、受給要件の盲点まで、不支給リスクを確実に回避するための重要ポイントをまとめました。これから申請を検討されている方や、現在準備中の方は、貴重な時間と労力を無駄にしないためにも、ぜひ申請前にご一読ください。

1. わずかな記載漏れで不支給決定となる書類作成の落とし穴

助成金の申請において、多くの経営者や担当者が最も甘く見ているのが「書類の整合性と正確性」です。補助金とは異なり、助成金は要件さえ満たしていれば受給できる可能性が高い制度ですが、その分、提出書類に対する審査は極めて厳格に行われます。なぜなら、助成金の原資は事業主が支払う雇用保険料であり、労働局などの審査機関は適正な支給を行う義務があるからです。そのため、「少し書き間違えただけ」「意味は通じるだろう」といった甘えは一切通用しません。

もっとも頻繁に発生し、かつ致命的となるのが「日付の不整合」です。例えば、キャリアアップ助成金などの申請では、計画届の提出日、就業規則の改定日、対象労働者の転換日といった時系列が一日でも前後しているだけで、即座に不支給決定となります。特に注意が必要なのが、就業規則を労働基準監督署へ届け出た日付です。社内での運用開始日と、監督署の受付印の日付に矛盾が生じているケースは後を絶ちません。

また、雇用契約書(労働条件通知書)と就業規則の内容の不一致も、よくある落とし穴の一つです。雇用契約書には「所定労働時間8時間」と記載しているのに、実態のタイムカードや就業規則上の定義と異なっている場合、労働時間の管理が不適切であるとみなされ、審査を通過できません。残業代の計算における端数処理のミスも同様です。計算結果が1円でも不足していれば、それは「未払い残業代がある」と判断され、労働関係法令違反として不支給の原因となります。

書類作成においては、単なる記入漏れや誤字脱字だけでなく、添付書類との数字の一致、整合性が完璧であることが求められます。これらは修正指示で済む場合もありますが、要件の根幹に関わる部分であれば、一発で不支給となるリスクを孕んでいます。申請期限ギリギリに書類を作成するとこうしたイージーミスが起こりやすいため、余裕を持った準備と、第三者による厳密なダブルチェック体制を整えることが、受給への第一歩となります。

2. 一日の遅れが命取りになる申請期限とスケジュール管理の盲点

助成金申請において、最も残酷でありながら頻発しているミスが「期限管理」の失敗です。書類の内容がどれほど完璧に仕上がっていても、提出期限を一日でも過ぎてしまえば、その申請は受理されません。行政機関の審査において、温情による救済措置は基本的に存在しないと心得てください。

多くの経営者や担当者が陥りやすいのが、「支給申請」の期限ばかりに気を取られ、その前段階にある「計画届」の提出期限を見落とすパターンです。例えば、キャリアアップ助成金のように、正社員転換などのアクションを起こす前に計画届を提出し、認定を受けていなければならない助成金が数多く存在します。「人を雇ってから申請すればいい」という認識でいると、その時点で受給資格を失ってしまうのです。

また、スケジュールの盲点となりやすいのが、提出方法による期限の扱いです。郵送の場合は「消印有効」なのか、それとも窓口への「必着(到達主義)」なのか、この違いは合否を分ける決定的な要素となります。特に、期限日が土日祝日に重なった場合の取り扱いには注意が必要です。労働局によっては、期限日が閉庁日の場合は翌開庁日まで延長される規定があることもありますが、これを独自の解釈で判断するのは極めて危険です。

さらに、社内の決裁フローや押印の手間を計算に入れていないケースも目立ちます。書類作成が完了しても、代表印をもらうために数日を要し、結果として発送が遅れるという事態は珍しくありません。

助成金を受給するためには、申請期限から逆算して余裕を持ったスケジュールを組むことが鉄則です。雇用契約書の締結日、就業規則の改定日、そして実際の入社日や転換日など、すべての事象が助成金の要件と整合性が取れている必要があります。カレンダー上のたった一日のズレが数百万円の損失に繋がるリスクがあることを理解し、早期の準備と専門家によるスケジュール確認を徹底してください。

3. 知らなかったでは済まされない受給要件と労働関係法令の重要性

助成金の申請準備を進める中で、多くの経営者や担当者が書類の作成方法ばかりに気を取られ、最も根本的な「足元」を見落としているケースが後を絶ちません。それは、助成金を受給するための大前提となる「共通要件」と「労働関係法令の遵守」です。どんなに完璧な計画書を作成しても、この土台が崩れていれば、申請は受理されないどころか、場合によっては企業の信用に関わる重大なリスクを招くことになります。

まず、絶対に確認しなければならないのが「解雇」の有無です。キャリアアップ助成金をはじめ、厚生労働省が管轄する雇用関係助成金の多くは、申請事業主に対して「支給申請日の前後一定期間に、会社都合による解雇を行っていないこと」を要件としています。これには退職勧奨による合意退職も含まれる場合が多く、離職票の離職区分が会社都合になっている従業員が一人でもいれば、その時点であらゆる助成金の受給資格を失う可能性があります。「本人が納得しているから大丈夫」という安易な判断は通用しません。労働局のデータベースですべて照合されるため、事実を隠して申請すれば不正受給とみなされる危険性すらあります。

次に、労働関係法令の違反も致命的なミスとなります。助成金は、雇用保険料を財源として、労働環境の向上に努める企業を支援する制度です。そのため、労働基準法をはじめとする法令違反がある企業に税金や保険料が投入されることはありません。具体的には、以下のような状態が一つでもあれば、審査の段階で不支給決定となる確率が極めて高くなります。

* 残業代の未払い: タイムカードや出勤簿の記録と賃金台帳の支給額に矛盾がある場合、労働局の実地調査で指摘されます。1分単位での残業代計算や、適正な割増賃金率(1.25倍など)での支払いがなされているかは厳しくチェックされます。
* 法定三帳簿の不備: 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード等)が整備されていない、あるいは記載内容に不備がある場合、そもそも審査を受けることができません。
* 36協定の未届出: 時間外労働を行わせているにもかかわらず、所轄の労働基準監督署へ36協定届を提出していない、または協定の上限時間を超えて働かせている場合も法令違反となります。
* 労働保険料の滞納: 過去の労働保険料を納付していない場合、当然ながら新たな助成金を受け取る資格はありません。

「法律のことはよく知らなかった」「忙しくて帳簿まで手が回らなかった」という言い訳は、審査の現場では一切通用しません。助成金の申請において最も重要なのは、テクニックではなく、日頃からの適正な労務管理です。申請直前に帳尻を合わせようとしても、矛盾は必ず露呈します。まずは自社の就業規則と実態に乖離がないか、法令違反の状態になっていないかを徹底的に見直すことから始めてください。

Follow me!