会社設立で税金はどう変わる?税理士相談で比較した個人と法人の節税実例

事業が軌道に乗り売上が順調に伸びてくると、どうしても気になってくるのが毎年の税金です。「頑張って稼いだのに、税金でこんなに持っていかれるのか」「会社設立をした方が節税になるのではないか」と、確定申告のたびに頭を悩ませている方は多いのではないでしょうか。

実は、個人事業主と法人では税金の仕組みや適用される控除が大きく異なり、正しい知識を持って選択することで、手元に残る資金に大きな差が生まれるケースも珍しくありません。しかし、単純に税率だけで判断してしまうと、社会保険料の負担増などの見落としがちなコストによって、かえって損をしてしまう可能性もあります。

そこで本記事では、数多くの起業家をサポートしてきた税理士への相談事例をもとに、個人と法人で税金がどう変わるのかを徹底比較しました。年収ごとの具体的なシミュレーションによる手取り額の違いから、社宅や出張手当を活用した法人ならではの節税メリット、さらには維持費を含めた会社設立の最適なタイミングまで、実例を交えて詳しく解説します。

今の状況で法人化に踏み切るべきか迷っている方も、将来的な選択肢として検討している方も、まずはこの記事でご自身の状況に当てはめてシミュレーションしてみてください。賢く節税し、事業をさらに成長させるための正しい判断基準が見つかるはずです。

1. 年収ごとのシミュレーションで判明!個人事業主と法人で手取り額はここまで変わる

個人事業主として売上が順調に伸びてくると、どうしても気になってくるのが重くのしかかる税負担です。日本の所得税は「超過累進税率」を採用しており、稼げば稼ぐほど税率が高くなる仕組みになっています。所得税と住民税を合わせると、最大で約55%もの税金が課せられる可能性があります。一方で、中小企業の法人税の実効税率は概ね30%前後で推移するため、一定以上の利益が出る場合は法人化した方が税金を安く抑えられるケースが多くなります。

では、具体的にどの程度の利益が出れば法人化がお得になるのでしょうか。一般的に、課税所得(利益)が800万円から900万円を超えたあたりが、法人化を検討すべき損益分岐点と言われています。

例えば、利益が500万円程度の場合を見てみましょう。この段階では、個人事業主として支払う税金・国民健康保険料等の合計と、法人化して同額を役員報酬として受け取る場合の手取り額に大きな差は生まれません。むしろ、法人住民税の均等割(赤字でも発生する税金)や、決算にかかる税理士報酬、社会保険料の会社負担分などのランニングコストを考慮すると、個人事業主のままの方が手元に残る資金が多い場合もあります。

しかし、利益が1,000万円を超えてくると状況は一変します。個人事業主のままでは高い税率が適用される部分が増えますが、会社を設立し、自分への給与として「役員報酬」を支払う形に切り替えることで、劇的な節税効果が期待できます。

この手取り額の差を生む最大の要因は「給与所得控除」の活用です。個人事業主の場合、売上から経費を引いた金額がダイレクトに所得となります。対して法人化した場合、会社側では役員報酬を経費として計上でき、さらに受け取る個人側でも給与所得控除という「みなし経費」を差し引いて税金を計算できます。この所得分散と控除の活用により、同じ1,000万円の利益を原資としても、法人化することで年間数十万円から百万円近く手取り額が増える実例も珍しくありません。

ただし、シミュレーションを行う上で忘れてはならないのが社会保険料の影響です。法人化すると、社長一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます。社会保険料は会社と個人で折半しますが、総額で見ると国民健康保険・国民年金よりも負担額が大きくなることが一般的です。そのため、節税メリットが社会保険料の増加分を上回るかどうかを慎重に見極める必要があります。

単純に「売上が上がったから会社にする」と決めるのではなく、ご自身の利益規模、経費率、扶養家族の状況などを踏まえて詳細な試算を行うことが、手取り額を最大化するための第一歩です。まずは「利益800万円」を一つの判断基準として意識し、そこを超えそうになった段階で専門家を交えた具体的な比較検討を始めるのが賢明でしょう。

2. 社宅や出張手当も経費に?税理士が教える法人化ならではの節税メリットと活用法

個人事業主から法人成りする最大のメリットの一つは、経費として認められる範囲が大幅に広がることです。所得税や法人税の負担を最適化するためには、法人ならではの制度を正しく理解し、活用することが欠かせません。ここでは、特に節税効果が高いとされる「役員社宅」と「出張手当」を中心に、その仕組みと具体的な活用法について解説します。

まず、多くの経営者が法人化の大きなメリットとして挙げるのが「役員社宅制度」です。個人事業主が自宅を事務所として使用する場合、経費にできるのは事業で使用している床面積の割合(家事按分)に限られます。プライベートな居住空間部分は経費になりません。しかし、会社設立後に賃貸物件を「法人名義」で契約し、社宅として役員に貸し出す形式をとれば、家賃の大部分を法人の経費(損金)に計上することが可能になります。

もちろん一定の賃料(自己負担額)を役員個人から会社へ支払う必要がありますが、一般的な住宅であれば家賃の50%から80%程度を経費にできるケースも珍しくありません。これにより法人の利益を圧縮して法人税を抑えられるだけでなく、役員個人としても実質的な家賃負担が減り、手取り給与から支払う支出が減少します。さらに、給与額を上げずに実質的な手取りを増やせるため、個人の所得税や住民税、社会保険料の負担増を防ぐ効果も期待できます。

次に注目すべきは「出張手当(日当)」の活用です。個人事業主の場合、出張にかかった交通費や宿泊費は実費のみ経費となりますが、食事代などの個人的な支出とみなされるものは原則として経費になりません。一方、法人の場合は「出張旅費規程」を作成し運用することで、実費とは別に定額の「日当」を支給することができます。

この出張手当には、税務上非常に大きなメリットがあります。法人側は支給した日当の全額を経費として計上できるうえ、受け取る役員や従業員側では所得税や住民税がかからない「非課税所得」として扱われます。さらに、この手当は社会保険料の算定基礎にも含まれません。つまり、会社と個人の双方にとって税金や社会保険料の負担なく資金を移動できる、極めて効率的な節税手段となるのです。

この他にも、法人化することで生命保険を活用した退職金の積立や、家族を役員にして所得を分散させることによる税率の適正化など、個人事業主では不可能な選択肢が数多く生まれます。

ただし、これらの節税スキームを安全に運用するためには、税法の要件を厳密に満たす必要があります。例えば、社宅の賃料設定が相場から著しく乖離していたり、出張旅費規程の内容が社会通念上高額すぎたりすると、税務調査で否認されるリスクがあります。会社設立時には、単に登記をするだけでなく、税理士と相談しながら社内規定を整備し、長期的な視点で節税戦略を練ることが重要です。

3. 節税効果だけで決めるのは危険?会社設立のタイミングと維持費を含めた正しい判断基準

法人化を検討する際、多くの経営者が「税金がどれくらい安くなるか」という点に注目します。しかし、税負担が減ったとしても、会社を維持するためのランニングコストが増加し、結果として手元に残る資金が減ってしまうケースも少なくありません。会社設立のタイミングを見極めるには、節税額と維持費のバランスを正しく理解する必要があります。

まず考慮すべきは「赤字でも発生する税金」です。個人事業主であれば赤字の場合、所得税や住民税は課税されませんが、法人の場合は異なります。法人住民税の均等割という仕組みがあり、たとえ利益がゼロであっても、年間で約7万円(資本金1,000万円以下、従業員50人以下の場合の標準税率)の納税義務が発生します。

次に大きな負担となるのが社会保険料です。個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入しますが、法人化すると社長一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられます。社会保険料は会社と個人で折半して支払う形になりますが、会社負担分も実質的には経営コストとなるため、トータルの支出は個人の時よりも増える傾向にあります。特に、役員報酬を高く設定する場合には、このコストインパクトは無視できません。

さらに、事務負担と専門家費用も増加します。法人の決算申告は個人の確定申告よりも厳格なルールがあり、複式簿記での記帳や複雑な税務書類の作成が必要です。そのため、税理士へ依頼することが一般的となり、顧問料や決算料などの税理士報酬は、個人事業主時代と比較して高くなることが通常です。また、法務局での役員変更登記など、会社法上の手続きにも登録免許税や司法書士への報酬が発生します。

では、どのタイミングで法人化すべきなのでしょうか。一般的に、課税所得(利益)が800万円から900万円を超えたあたりが税率上の分岐点と言われています。個人の所得税率は累進課税で最大45%まで上がりますが、法人税率は一定の所得までは軽減税率が適用され、それ以上でも税率はほぼ一定だからです。また、売上高が1,000万円を超えて消費税の課税事業者になるタイミングで、新たな法人を設立することで消費税の免税期間(最大2年間)を活用するという手法もよく知られています。

ただし、これらはあくまで数字上の基準に過ぎません。将来的な事業拡大の計画、銀行融資を受けるための社会的信用、大手企業との取引条件としての法人格の必要性など、税金以外の要素も総合的に判断する必要があります。目先の節税効果だけでなく、増加する維持費や手間を天秤にかけ、長期的なキャッシュフローをシミュレーションした上で会社設立を決断することが重要です。

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